menu
文教/公共 [ Educational / public ]

教育専用ツールを使用しないBYODによるiPad導入・活用 ~千葉県立袖ヶ浦高等学校~

公立高校は予算の都合上、なかなかIT化が進められない側面がある。生徒人数分のタブレットの導入やサーバーの構築、無線LANの整備など、多大な投資が必要となるためだ。そこで千葉県立袖ヶ浦高等学校では、生徒の私物のタブレットを授業で活用するBYODによって、1人1台のタブレット活用を実現している。コストを抑えた運用を進める、同校のタブレット活用について話を伺った。

[2016.04.04]

世界中で通用するサービスを活用する


 千葉県立袖ヶ浦高等学校(以下、袖ヶ浦高校)では、2011年より設立した情報コミュニケーション科において、生徒1人につき1台のiPadを家庭で購入してもらい、生徒の私物として授業で活用するBYODによるタブレット活用を進めている。情報コミュニケーション科では、情報という名称を冠してはいるが、情報についての専門知識を習得する学科ではなく、あくまで普通科と同様の授業に情報活用を付加する形で、生徒の主体性を育てている学科だ。同科の設立当時から、袖ヶ浦高校の情報科に携わる情報コミュニケーション科長 永野 直氏は、その意図をこう語る。


 「高校の授業はどうしても受験や就職といったゴールが設定されているため、教員が一方的に話す講義型の授業になりがちです。しかし、このような授業では生徒が情報をまとめたり、ディスカッションしたりというような主体的な力は育ちません。また、学校現場の中にはスマートフォンやタブレットの持ち込みを禁止している学校もありますが、情報の収集や取捨選択、活用を行う場合、IT機器は必ず絡んでくるツールです。本校では学力の育成と基礎的な情報リテラシーの育成、その両面を重視した教育を行いたいと考え、情報コミュニケーション科において、普通科の授業内容をベースにタブレットを利用して授業を行っています。本校の校長などは、情報コミュニケーション科のことをよく『非凡な普通科』と表現しています」


 同校のiPad活用で特長的なのは、EvernoteやDropbox、学校向けのSNSであるednity(エドニティ)といった無料のクラウドサービスやSNSを利用している点だ。例えば英語の授業で英文を読み上げる際に発音をチェックするため、各生徒が自分の音読した音声をEvernoteにアップロードして教員に提出したり、ednityを活用して授業中に疑問に思ったことを投稿して、それを電子黒板に表示させたりといった活用を行っている。


 「ednityに投稿した疑問点などは、教員がその場で回答するなどリアルタイムでフィードバックを行っています。例えば世界史を苦手とする生徒は多いですが、教科書には掲載されていないような関連事項や、素朴な疑問をくみ取って周辺知識を教員が話すことで、授業内容への興味や関心が高まります。しかし講義型の授業では、逐次生徒の疑問点をくみ取ることはできませんでした。iPadを導入してednityなどのSNSを活用することで、これまでの講義型の授業から、生徒主体の授業に変わり、授業に興味関心を持って取り組めるようになっていると感じています。また、それによって実際に成績も向上しています」と永野氏は語る。


 しかし、タブレットを活用した授業を生徒主体で行う場合、協働学習専用のソフトウェアを利用するなどの方法もある。なぜ袖ヶ浦高校では無料のクラウドサービスやSNSを使用しているのだろうか。その問いに対して永野氏は次のように答えた。


 「最大の理由は予算がないことですが、もちろんそれ以外にもEvernoteやDropboxを選択した理由はあります。例えばタブレットを導入した学校現場では、教育専用のシステムなどを導入するケースがありますが、それらは決して一般的なツールではありません。社会に出たときに、それらのツールは使用できないのです。ですがDropboxやEvernoteなどのサービスは、世界中で通用します。個々のサービスでは不足している点もあるかもしれませんが、長所を組み合わせれば十分に活用できます。生徒には、本物のサービスを利用して、社会に出てからもその力を活かしてほしいと考えているため、これらのサービスを授業で活用しています」


生徒の判断で利用ルールを策定する


 このようなクラウドサービスの利用は、サーバーの構築や管理の手間を省く上でも効率が良いのだという。同校ではiPadで利用するための専用のサーバーは導入しておらず、コスト負担を抑えた運用を実現している。iPadも生徒個人の家庭で購入して学校で活用するBYODの手法をとっているため、学校側のコスト負担は最低限だ。生徒の家庭には入学前の説明会で、iPadを利用する意義などを説明し、iPadを購入した上で入学してもらうようお願いをしているのだという。購入する端末は入学当時の最新モデルのiPadであることを定めている以外は、選定の基準として容量の違いやセルラーモデルとWi-Fiモデルの違いを説明しつつ、最終的な判断は各家庭に委ねている。


 また、学校における利用のルールについても、学級ごとに生徒の判断で定めている。「学校によってはアプリケーションのインストールを禁止するなど、利用ルールを学校側が厳格に定めているケースもあります。しかし、本来iPadなどのツールは様々な目的に使用されるものです。勉強のツールとして利用するだけでは活用の力は身につきませんし、積極的に利用しようとは思わないでしょう。失敗する可能性もありますが、この自由な環境を活かして将来の力にしてほしいですね」(永野氏)


 同校では今後もiPadを活用した授業を続けていく。現在は情報コミュニケーション科でのみiPadを利用しているが、今後は普通科での活用も視野に入れている。すでに生徒のスマートフォンを活用して、英語の音読の音声を提出させるような授業を普通科で実施している教員もいるという。「現在はセキュリティや性能の問題でiPadを採用していますが、最終的にはメーカーやOSを問わず、生徒が好きな端末を使って学習できるような環境にしていきたいですね」と永野氏は意欲を語った。

キーワードから記事を探す

事例 文教