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精度の高い未来予測

IoT環境では、日々膨大なデータが生み出される。それらのデータは分析することで予測などに活用できるが、正確な未来予測に利用するには不足している部分もある。今回はより正確な未来予測を実現できる「マイクロナレッジ技術」について解説する。

[2016.04.01]

情報に新たな価値を創造する


 IoTと言うと、どうしてもセンサーデバイスに注目が集まるが、デバイスだけではIoT環境は成立しない。実際には、センサーデバイスによって収集されたビッグデータを解析し、そのデータを活用して未来予測などを行うことが、IoT環境を実現する大きなメリットと言えるのだ。


 昨今のデータ活用では、センシングデータを利用して一人ひとりの嗜好に応じた情報配信やレコメンドをするなどの"パーソナライズ"が主流になっているが、人の行動は時間や場所、一緒にいる人物などに応じて変化するため、必ずしも個人の嗜好のみで決まるものではない。そのため、データ分析を行っても正確な未来予測には結びつかないという課題が発生する。


 このような課題を解決するため、神戸デジタル・ラボと京都大学、電気通信大学は三者でデータ活用技術「マイクロナレッジ技術」の研究開発を進めている。マイクロナレッジ技術とは、京都大学の新熊亮一准教授が発案した「関係性技術」を応用したデータ分析の技術だ。具体的には、画像や音声、行動履歴などのコンテンツを、場所や時間などの周囲の状況とともに「出来事を表すナレッジ」として数値化し、周囲の状況を介してコンテンツ同士を結びつける技術だ。


 このマイクロナレッジ技術のメリットについて、神戸デジタル・ラボの取締役および先端技術開発事業部長を務める山口和泰氏は次のように語る。
 「従来のIoT環境でセンシングデータを活用する場合、音声情報であれば音声情報だけ、温度情報であれば温度情報だけを集めて分析するケースが中心でした。マイクロナレッジ技術では、音声情報や温度情報、湿度情報など、その場所の情報を表すデータをコンテキストグラフとして処理し、複数のセンシングデータを有機的につなげ、合成することで新たな価値を生み出します」


 具体的には、音声情報や温度情報などのセンシングデータを関係性技術によりコンテキストグラフとして生成する。これにより、各種センシングデータにつながりがあるグラフとして取得が可能だ。このコンテキストグラフと、監視カメラ映像のようなコンテンツを組み合わせたものを"マイクロナレッジ"と呼ぶ。例えば水田の監視で活用した場合、温度や湿度のデータの他に音声データを収集すると、気温32度のときに風の音が取得できなかった=無風状態だったことなどがマイクロナレッジとして取得できる。これらのマイクロナレッジを複数合成し、マップ情報などと組み合わせることで、高次ナレッジと呼ばれる広範囲のナレッジ情報が取得できるようになる。複数の場所のマイクロナレッジを取得することで、場所ごとのナレッジ情報の違いなどを比較して最適な未来予測が行える。


利用メリットの高い駐車場を実現


 このマイクロナレッジ技術を活用した実証実験が、三井不動産リアルティが運営する「三井のリパーク」の駐車場で実施される。今回の実証実験を始めるきっかけについて、山口氏は「三井のリパークのようなコインパーキングは競合が多く、他社とどのような差別化を行っていくのかが課題となっていました。また、新しいデータを取得する場合、駐車場の満空情報とどう組み合わせたらよいのか判断がつかず、データ活用に悩みを抱えていました」と語る。


 そこで三井不動産リアルティでは、マイクロナレッジ技術による分析を採用することで、後々のセンサーデータ収集に対応できるようにした。マイクロナレッジ技術では音声データや温度データ、湿度データなど多様なデータを収集・分析できるスキームを持っているため、フォーマットを合わせれば分析が可能になるのだ。なお、本事業は総務省の「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」の平成27年度研究開発課題の公募のうち、ICT分野で国として取り組むべく重要分野として実施される重要領域型研究開発で採択されており、注目度の高い実証実験と言える。


 「現在のところ協議の段階ではありますが、今回の実証実験では三井のリパークの駐車場の満空情報と温度センサーや湿度センサーなどの環境センサーを組み合わせて、気温情報などに応じたサービスを提供する予定です。例えば駐車場は基本的に目的地に近い場所を洗濯しますが、そこが満車だからといって離れた場所の駐車場を案内されても顧客満足度が下がってしまいます。特に夏の暑い時期であれば、離れた分だけ屋外を歩かなければなりません。そのような利用者にとってのデメリットを少しでも減らすため、データを組み合わせた分析を行うマイクロナレッジ技術が役に立つと考えています」(山口氏)


利用者に能動的に情報発信


 関係性技術と組み合わせた活用も視野に入れている。具体的には、駐車場の利用者側の情報を分析して、最適な駐車場とマッチングするような活用だ。関係性技術は、ユーザーがWebで検索した情報や、利用した店舗の情報、また関わりのある人の情報などを結びつけて未来予測を行う技術だ。そのため、利用者の情報を関係性技術によって分析すれば、どの駐車場を活用するのが最適かなどを利用者のスマートフォンへ発信することが可能になる。実証実験は今年の春から実施される予定だ。


 神戸デジタル・ラボと京都大学、電気通信大学は共同で「モバイルソーシャライズシステムフォーラム」を立ち上げており、関係性技術の産業化を推進している。今回のマイクロナレッジ技術もその産業化推進の一環だ。「研究開発はどうしても研究開発のための研究開発で止まってしまい、産業化に至らないケースもあります。私たちは大学や研究機関と産業との架け橋となるプレイヤーとして、今後も技術の検証や実証を進めていきたいと考えています」と山口氏。


 IoTが本格的に活用されるためには、複数のデータをシェアして分析することが不可欠だ。その役割を担う存在として、マイクロナレッジ技術は重要な存在と言えるだろう。

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